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アメリカの大学院で4セメスター終えて思う事(その4)

テキサス州立大学院で支援教育(Special Education)と識字教育(Reading Education)を学んで驚くことの3つ目は生徒指導や生徒理解に関することですー「生徒の問題行動に対してEvidence-based(科学的根拠がある)である方法論が確立されてそれが実際に使われていること」です。問題行動とは様々な程度のものを指します―指示に従わない、規則を破る、不適切な言語使用、いじめ、器物破損、生徒間の喧嘩、教員への攻撃、ナイフ・拳銃等の持ち込みや使用。

その方法論の一つを紹介します。この方法論は問題生徒のみを対象とするものではなく全校生徒を対象にした、そして全職員を巻き込んだものです。アメリカでは問題行動が多い学校で採用が検討されその数は年々増加しています。これを学んだ時の最初の印象は「アメリカではここまでしないといけないんだ」でしたが、日本の学校ではどの部分が活用可能で、活用に適していないか等を考えさせられました。その方法とはPositive Behavioral Interventions and Supports (PBIS)です。日本語では「ポジティブな行動的介入と支援」と訳されているようです。実はこれを書く際にウェブ上に日本語でのPBISの説明はないものかと期待しないで探してみたら、ドンピシャであったので紹介します。しかもPBISの権威であるDr. George Sugaiが2013年にPBISについて日本教育心理学会の総会で講演されたときの資料のようです。その資料がこちら

http://www.pbis.org/common/cms/files/pbisresources/PBIS%20Dr.%20Sugai%20JAEP%20Revised.pdf

ここにPBISについて詳しく日本語で書かれています。興味がある方は見てみてください。

上の資料は大量の情報でもあるし、読みこなすには時間もかかるので要約してみます。

PBISとは:

  1. 伝統的な懲罰的教育の反省から生まれている(懲罰はその場しのぎの効果しかない)
  2. 自閉症の生徒に有効であるApplied Behavior Analysis (ABA)=行動分析学から生まれている。ABA由来でPBISに活用されている考え方の例:
  • 行動は学ぶことで習得される、つまり問題行動は学ぶことでなくすことが出来る(”Human behavior is learned, thus behavior can be unlearned.”)
  • 全ての行動には目的がある("Every behavior has a function." )。つまり問題行動すべてに目的(例:”授業中に騒ぐ”という問題行動は”教員や級友に自分に注目させる”という目的)があるので、その目的を達成できる別の方法(”教員や級友に自分に注目させる”という目的達成のために別の方法”クラスのリーダーなってその役割を果たすことで注目を集める”)を生徒に教授することで、その問題行動を使わなくても目的は達成できることをしめすことが出来る。
  • 問題行動を誘発する刺激を出来るだけ取り除く。例えば廊下での問題行動をなくすために、”右側通行を徹底し、立ち止まらない”とするはっきりとしたルールを徹底して教授、標識を提示することで常に注意喚起する。
  • 好ましい行動を誘発し持続させる為にその行動に対してpositive reinforcement (報酬)を与える。報酬には“Good job! ”などの言語による称賛や物品(鉛筆、お菓子、玩具など)と交換できるポイントを含む。
  1. 問題行動と学業成績の間には相関性がある、つまり問題行動が減れば学業成績はおのずとあがり、問題行動が増えれば学業成績は上がる。
  2. 問題が起こって後で対処する懲罰のReactiveモデルから、問題が起こる前に対処するProactiveモデルへのシフト
  3. 問題の原因を生徒自身に見出すよりも、その問題行動を誘発する環境の中に見出す
  4. 全校生徒対象としており、全教職員や地域を巻き込んでいる。そして、PBIS成功のために80%の教職員の協力体制が必要と言われている。
  5. 全ての生徒のニーズに応えるため、3層構造になっている: Universal level (全校生徒対象ではあるが80~90%の生徒に効果があるとされる), 2. Secondary level (5~10 %の生徒に効果がある), 3. Tertiary level (1~ 5%の生徒に効果がある)。3つめの層 ”Tertiary level” の上に特別支援教育がある。PBISでは一つ目の層は全校生徒の約80%にのみ有効であり、それに反応できない生徒たちを第2の層で、それにも反応示さない生徒は第3の層で対処するという。それにも反応できない生徒に対しての特別支援教育がある。どの層であっても、すべてEvidence-basedな教授法を使用するが、層が進むにつれて支援の程度と頻度が高くなるという仕組み。下の図の右側が問題行動に対処する3層構造で、左側が学業問題に対処する3層構造です。

    f:id:syummyko:20170104045355p:plain

      

     PBIS Office of Special Education Programs (OSEP) Technical Assistance Centerより引用

  1. 全ての判断はDataに基づいている。PBISでの全ての判断、たとえば問題エリアの特定、生徒の層の移動、PBISが機能しているかの判断はすべてDataを取ったうえでの判断である。Dataの種類として、ODR(Office Discipline Referral = 校長扱いの問題行動、学区に報告義務のある案件)の数、実際観察による問題行動発生の実際の数字等がある。

こうしてPBISについて書き出してみると、日本での生徒指導・生徒理解に活用できることが多いにあるということに改めて気づかされました。「活用できる」というより、「活用すべき」点があると言うべきでしょう。なぜならば、日本での生徒指導は事後指導の懲罰が中心であり、懲罰の効果はABAによる人間行動の研究では否定されているのです。もっと詳しく言うと、「好ましい行動に対する報酬が与えられる環境において懲罰は効果があるが、懲罰のみが与えられる環境では懲罰には効果がない」のです。懲罰中心の生徒指導が生徒の問題行動の防止に大きな効果がないことは、教員、特に指導困難校での経験がある教員であれば合点がいくのではないでしょうか?私達教員にPBISの知識があれば、彼らの問題行動に別の対処が可能になり、なによりもその問題行動が起こらないような働きかけができるでしょう。私が過去に受け持った卒業までたどり着けなかった生徒達も、私や学校がPBISの知識とその実践があればそのうちの数人かでも違う未来があったのではと真剣に思います。

 

しかしながら、PBISには私が大きな違和感を覚えるものがあります。それは上の2で挙げたABAの中で挙げた“報酬”に関してで、アメリカの教員の中にも違和感を覚える教員が少なくはないようです。彼らの主な主張は「生徒として当たり前の行動をすることに、なぜ報酬を与える必要があるのか?」です。日本の教員にもそう感じるものが多くいることは容易に想像できます。私の違和感は“報酬”そのものというより、報酬の種類にあります。例えば「授業中にトイレに行っていいチケット」「宿題をしないでいいチケット」という報酬には違和感を覚えます。この他に「変なソックス履いてきていいチケット」「制服を着てこないでいいチケット」「玩具、お菓子のような学校とは関係のない物品」などには、私自身は大きな違和感を覚えませんが、日本の多くの教員にとってはそうではないと想像できます。

 

報酬の数種類に違和感を覚える私ではありますが生徒に報酬を与えること自体には大賛成です。ですが「PBISの貢献度にたいして教員にも報酬を与える」と授業中に学んだ時、「マジで?」と言いそうになるほど驚きました。しかもその種類を聞いたとき、「どないなってんねん?」

と大阪人である心の声が自分の中で響き渡りました。その種類でもっともびっくりしたのが「校長が褒美としてその教員の授業を担当する」です。どうですか、これ?「アメリカの教員にとって授業って何?」と思いませんか。少なくとも私にとって「授業とは教員の命」です。やむを得ないない事情で他の誰かに代わってもらうことはありますが、そんなご褒美でその責務を免れるというという考え方は・・・授業は教員にとっては「やりたくないもの」というメッセージになりませんか、生徒にとっては。 日本人で、日本で教師をしていた自分が近い将来アメリカで教員として働くことが出来た時、きっとこれ以外にも違和感を覚えることに出会うのだろうと想像します。でもお互いに“違う”ことではなく、お互いに“共通すること”にフォーカスしていきたいなと強く願います。そして“違う”ことを他者理解や、自分や他者や組織全体の成長のきっかけと捉える自分でいられるよう、褌を締めなおす気持ちでいます(褌なんて履いたことありませんけど!)。

 

参考文献

PBIS Dr. Sugai JAEP Revised.

http://www.pbis.org/common/cms/files/pbisresources/PBIS%20Dr.%20Sugai%20JAEP%20Revised.pdf

PBIS Office of Special Education Programs (OSEP) Technical Assistance Center. 

https://www.pbis.org/school/mtss